なぜ米国の一流大学はリベラルアーツを重視するのか
今回は中村恥一さんの著書、『教養としてのギリシャ・ローマ』を紹介します。
本書では米国の大学ではリベラルアーツが重視されている点、
そしてその理由がまとめられており、知的欲求を刺激してくれる本です。
今回はそれを学ぶ意味という視点で紹介していきます。
結論
私たちがリベラルアーツを学ぶ意味は大きく5つの「知る」に集約できます。
それは
- 「先人の思考」を知る
- 「学ぶ」ことの価値を知る
- 「自由・自立の精神」を知る
- 「哲学」と「倫理学」を知る
- 「ルネサンス」の意義を知る
の5つです。
リベラルアーツを学ぶ意味①:「先人の思考」を知る
第1として、先人達の思考を知ること、そしてそこに自分の思考を重ね合わせることです。
私たちの周りには文明のもたらした恩恵が無数にあり、
その全ては長い年月と労力を経て積み上げられてきた成果物です。
そのプロセスを振り返ることは祖先の思考を追体験することでもあるのです。
当時の人々は問題に対してどのように考え、取り組んできたのか。
今日に生きる私たち自身の問題意識や思考の支柱になるはずです。
リベラルアーツを学ぶ意味②:「学ぶ」ことの価値を知る
2つ目は、そもそも「学ぶ」とは何かを知るということです。
教育とは視力を与えることではなく視界を変えさせることです。
ヨーロッパやアメリカでは「向き変え」を歴史に求める伝統があります。
「知」によって困難を克服し世界の発展を牽引してきたという自負があるからです。
その歴史を学ぶことは知識を頭に入れるだけではなく、世界観を構築することなのです。
自分が社会の担い手となった時、何が正しくどちらに進むべきかを判断する上で
根本的な指針になるはずです。
リベラルアーツを学ぶ意味③:「自由・自立の精神」を知る
3つ目は人間にとって最も大事な「自由・自立の精神」について知るということです。
未開の地であった地中海世界が少しずつ開けていったのは当時の人々のおかげです。
自らの手で国家や文明を作り上げてきた彼らの思考体系や価値体のプロセスは
有用な示唆に満ちています。
その逞しい開拓者精神、より豊かで自由な暮らしを求めて未知の世界へ飛び出し、
新たな都市を建設するほどの向上心は、現代の特に若い人ほど身につけるべきものです。
リベラルアーツを学ぶ意味④:「哲学」と「倫理学」を知る
4つ目は「哲学」「倫理学」とは何かを知るということです。
端的に言えば「より良く生きるにはどうすればいいか」、
「どういう社会を築けば幸福になれるのか」と考える学問です。
その祖はソクラテス、プラトン、アリストテレスの3人です。
その思考に触れる前になぜそういうことを考えるに至ったかを知る必要があります。
当時のギリシャは大きな戦争を経験しており、民主政という政治形態についての問題を抱えていました。
そのため、より良く生きられない環境であり、幸福になれない社会だったのです。
そのような没落した社会に生きたからこそ個人の考え方や行動規範、
国家体制の在り方などを通じて再興への道を模索し続けたわけです。
それが後に「哲学」「倫理学」と呼ばれるようになりました。
およそ2500年前の時点で極めて今日的な課題に直面し深く考察していたことに驚きます。
リベラルアーツを学ぶ意味⑤:「ルネサンス」の意義を知る
5つ目は「ルネサンス」以降の知の系譜を知るということです。
リベラルアーツとルネサンスには深い関わりがあります。
「ヘレニズム」を学び直すことが「ルネサンス」の意味であり、それを現代において、
その後の文献も含めて再び学び直すのが「リベラルアーツ」だからです。
そもそもヘレニズムはアレクサンドロス大王の東方大遠征によって、
ギリシャの叡智とオリエントの文明が結びつき「ギリシャ風の文化」というヘレニズムが生まれたのです。
それは同時に地中海世界全域に君臨する”グローバル”な思想価値体型が生まれたことも意味します。
このような考えが形を変え、産業革命やフランス革命、
アメリカ独立宣言などの支柱となり現代の姿となっています。
日本史も「ヘレニズム」の影響を受けていた
リベラルアーツは日本の歴史にも大きな転機をもたらしています。
イエズス会の到来から学問や航海術などの西洋文明を知ることになります。
日本人が驚いた西洋文明とは高度に進化したヘレニズムなのです。
そして19世紀後半の明治維新からの文明開化も挙げられます。
政治・経済の仕組みだけでなく社会や文化などのあらゆる分野で「西洋風」として
受け入れられた文明は、全ての元を辿ればヘレニズムだったのです。
まとめ
本書は上記の前置きをした上で、実際にギリシャ・ローマの歴史を学べる一冊となっています。
歴史を学ぶ意味ってなんだろうと学生時代は感じていましたが、上記のメリットを知ると
歴史を学ぶ重要性を確認できます。
この意味を知ることで、これから出会う情報や出来事に対して多面的に考えられると確信しています。
本書は学校の教科書のように、ただ文字が並んでいるだけではなく、
その当時の情勢や環境を踏まえることで理解しやすくなっています。
私自身世界史は得意ではないのですが、状況をイメージしながら読み進めることができました。
偉人達が切り開いた世界に興味があればぜひ。