【書評】無—MU—(最高の状態)

人類はみな”生まれつきネガティブ”である

今回はサイエンスライターの鈴木祐さんの著書『無(最高の状態)』を取り上げます。

鈴木さんは世界中の様々な研究・論文から裏付けされたデータをもとに、

心身の健康のためのブログを書いている方です。
→『パレオな男:https://yuchrszk.blogspot.com/

世界中のたくさんの研究から人間の最高の状態である『無』のメリット、

それに至るまでのトレーニング方法が記されています。

人間関係でストレスが多いこのご時世に生きる我々にとって非常に有益な本と感じました。

以下でポイントを記していきます。

結論

初めに、結論として本書で述べられていることから重要なポイントを挙げます。

  • ネガティブなのは「メンタルが弱い」が原因ではない
  • 悪法を客観的に観察し、対処する
  • 抵抗せず降伏する

人間が心理的に様々な悩みを抱えるのはメンタルの強度は関係なく、考え方にある。

そして自分の行動を観察し、虚構に流されないようにする。

以下で詳細を記載していきます。

人は苦しみをこじらせる

人とチンパンジーなどのその他哺乳類との違いはなんでしょうか。

著者は、『真の苦しみは”二の矢”が刺さるか否かで決まる。』といいます。

足を怪我した、仕事に失敗した、などの絶対的な事実を”一の矢”と言います。

そして人間以外の哺乳類にもこの”一の矢”は刺さります。

ところが多くの人はここで”二の矢”を放ってしまいます。

「なぜ自分だけがこんな目に遭うんだ、、」「明日からの仕事もうまくいかないかも、、」などです。

“一の矢”に反応した脳が様々な思考を生み出し、新たな怒りや不安、悲しみが

自分自身を貫き、苦しみが深まっていくのです。

このように最初の悩みが別の悩みを呼び込み、同じ悩みが反復される状態を「反芻思考」と言います。

この反芻思考こそ人を悩ませるものになります。

メンタルが強い・弱いの問題ではない

そのような自分を傷つけてしまう自己は何でできているのか。

メンタルが弱い人が陥りやすいと感じますが、そうではありません。

人は脳が作り出したシミュレーション世界を生きていると言います。

毎日の生活の一つ一つを脳が新しいものとして処理しているのではなく、

同じものだろう、と予測して使いまわしているのです。

玄関を開けるといつもの景色が広がっているだろう、ドアノブの感覚はいつもと同じだろう、などです。

しかしそのストーリーがトラブルを起こすこともあるのです。

友人に冷たい態度を取られた際に、「今、彼は忙しいからだ。」という物語をとるか、

「私は愛されない人間だ。」という物語を取るかで話は変わります。

前者をとった人の中には「後で連絡しよう。」と思うだけですが、

後者には「嫌われた。何か悪いことをしたのでは。」という二の矢が刺さり、ループするのです。

つまり、苦しむ理由はメンタルの弱さではなく、

脳内に作られた”ストーリライン”が適応か否かの問題なのです

精神機能を鍛える

以上で見たように人間の精神機能は柔軟であり脆弱と言えます。

その脆弱性をクリアするために具体的な方法が、結界を張ることです。

具体的には『感情の粒度を上げる』『内受容感覚トレーニング』の2つで、

自分自身の内面の動きを正しく認識し、脳に安心感を与えることが目標になります。

感情の粒度を上げる

感情の粒度が高いとは、気分が悪いことに対して「癇に障る・憤る・イラつく」といった、

複数の表現を思いつきその中から1番しっくりくる言葉を選ぶことができる状態のことです。

逆に、低いとは全てのことに「むかつく」など1~2語で表現することです。

日頃の出来事を詳しく思い出し、様々な言葉で表現してみることで感情のラベリングを

行うことができ、「言語の結界」としてあなたを守ってくれます。

内受容感覚を鍛える

内受容感覚を鍛える、とは臓器の感覚を感知する能力のことです。

自分の肉体の変化を正しく察知できないと、精神にマイナスの効果を及ぼしかねません。

その具体的な方法として、

  • 心拍数トラッキング
  • 筋肉感覚トラッキング
  • スダルシャンクリヤ

などが挙げられています。

自らの悪法を知り、対処する

あなたの判断は物語の影響を大きく受けあなたの行動を導く法律のような働きをしています。

その行動が、”歪んだ法律”、つまり”悪法”によって左右されている場面が多くあります。

本書ではその悪法を18に分類しており、必ずあなたもどれか当てはまるはずです。

自分はどの悪法によって縛られているのか、そしてその悪法に対処する方法を学ぶことが重要です。

そのために毎日の生活の中で抱いたネガティブ感情を記録し、当時の状況を分析することが勧められています。

そうすることで無意識に悪法に縛られず、「自己をならう」ようになっていきます。

降伏

最初に述べたように、悪法に自分自身で二の矢を刺してしまうことで、余計に苦しみを感じてしまいます。

私たちが抱く苦しみは抵抗すればするほど逆に威力を増す性質を持っているからです。

そのため、『苦しみ=痛み×抵抗』と表すことができます。

例えば、山に登れば誰でも足の痛みなどを経験しますが、苦しみまでは抱く人はほとんどいません。

登山者は「この困難を選んだのは自分だ」という意識があるため痛みに抵抗しないからです。

しかし誰かに強制されて山に登った人には「なぜこんな辛い目に…」という思考が巡り始めるでしょう。

私たちがとれる対策は、現実に対して積極的に「降伏」することです。

別の思考を展開させて運命を呪うのではなく、

現在の状況を受け入れて、なすべきことだけを行うのです。

無我

事実を事実として客観的に見ることができると苦しみをこじらせることはなくなります。

ネガティブな感情や思考に踊らされず、脳が生み出す物語に巻き込まれにくくなります。

こうなれば二の矢も継がれることのない“無我”に至ります。

その無我が以下の3つの世界観の変化をもたらします。

  • あなたを永遠の初心者に変える
  • 変化への限りない受容力を生む
  • あなたに圧倒的な自由をもたらす

転用

今回の”無”に近づくための方法として取り組みやすいものを紹介します。

本書でも書かれているのですが、何かマイナスな感情が湧いてきたら少し時間をおいてみることです。

一の矢は予期せぬ場面で刺さります。

二の矢、三の矢に刺さらないためにも一度深呼吸をするなり、

本書で紹介されているリラックス方法を試すなりしてみて、距離を置くことが有効です。

反射で言動することは違う行動を選択する自由を放棄しており、

ネガティブな思考と感情によって行動を決められている状態は不自由なのです。

まとめ

今回は本書で述べられている大筋を紹介しました。

周囲の人とともに生きていく人間は、相手の反応から自分の過去、

そして未来まで考えすぎてしまっています。

自分で自分を傷つけており、苦しめているということが理解できます。

自らの思考回路を観察し、脳内が生み出す物語に流されすぎないようにすることが大事です。

私自身、取り組んでいる期間は短いですが、1週間ほどで悪法はかなり改善されたと感じます。

本書は最初から最後まで順番に読み進めることで深い理解が得られるため、

ぜひ手に取って読破してみてください。

きっと最高の自分が出来上がると思います。